『スティーブ・ジョブズ Ⅰ 』がメチャメチャおもしろい
スティーブ・ジョブズの公式伝記である『スティーブ・ジョブズ1、2』は、両方合わせて1000ページを優に超えるなかなか歯ごたえのある伝記。なので少々気合のいる本なんですが、伝記を読むことの意味を改めて感じさせてくれるような本です。
リード大学を中退してカリグラフィの授業に潜り込み、それがマッキントッシュのスタイルに影響を与えて云々……というようなストーリーはあまりに有名で、わざわざ伝記なんか読まなくても彼の華々しい成功物語はだいたい知ってるよという人は多いでしょう。しかし、有名すぎるが故に「知っているつもり」になっているのはまた事実だと思います。
テレビや雑誌でよく語られる彼の名言や伝説は、実はほんの表面にすぎません。そうした表面だけをみていたらきっと、スティーブ・ジョブズという人間は雲の上の伝説的な存在にしかみえないでしょう。伝記を紐解くことで、はじめて彼の人間的な部分がみえてくるのです。
必修の講義をサボりまくり、自分が何をしたいのかもわからなかった大学時代。マッキントッシュのプレゼンテーションを前にものすごく緊張する姿。マッキントッシュが売れるかどうか、不安をビル・ゲイツに漏らす姿…。人間なのだから当然弱い部分もあります。世界に歴史的な革命をもたらした人でさえ、普通に緊張するときはするし、不安に押しつぶされそうになるときもあるのです。そうした人間的な部分が垣間見えるのは伝記ならではでしょう。
そういうところにこそ、私たちは共感を覚えるし、勇気をもらうのです。伝記を読むことの意味はそこにあるんだと思います。
人は誰しも先の見えない不安や、やらなければいけないことに追われています。しかしそれは世界に衝撃を与えた成功者であっても同じことです。皆、同じようにストレスを抱え、その中で奮闘しているのです。そうした成功者がちょっと違う点といえば、不安な状況やうまくいかない時期ですら楽しもうとしている点でしょう。
ジョブズの大好きな言葉で「旅こそが報い」という言葉があります。まだマッキントッシュも開発中だった頃、会社の合宿研修でモットーとしてジョブズが掲げた言葉です。開発にはさまざまな苦労が伴うし一筋縄ではいかないだろうが、その苦労し悩んだ道のりこそが何年かして振り返ったら宝物になっているだろうという。
そういう、不安な状況やうまくいかない時期のそれ自体が宝であり報いだという姿勢があったからこそ、楽しむことができたのかもしれませんね。ただ、どんな状況でも楽しもうというのは言うは易いが行うは難しでしょう。並大抵のことではないし、実際、目の前で起こるのはとても楽しむことなどできないような状況ばかり。そういうときに力になってくれるのは、不安な状況やうまくいかない時期ですら楽しもうとした人たちの伝記なんじゃないでしょうか。
この『スティーブ・ジョブズ1、2』もそのひとつ。1だけでも約600ページあるんですが、挑戦してみればその労力に見合った発見と興奮があることは間違いありません。読んだら「何かが変わる本」です。